conceptというほど大げさなものではないのですが、絵を描くようになった経緯やいま表そうとしていることについてここで少し触れておこうと思います。
私は絵が好きだから絵を描き始めた訳ではない。子どもの頃、人と話すのが怖く、 自分の意思や感情を表すことは更に恐ろしいもので、いつ自分を失うか分からなかった。そんな時に生きる場と自由を与えてくれたのが描くこと歌うこと。そんな思いで絵を描くようになった。その為か、自分で何かを現すために描こうとはまったく思わなかった。ただただ目の前にあるものを見えた通りに描くという行為に没頭していた。
時がたち、高校卒業にあたり、なんとなく絵を描く道を選んだ。その時はいろいろある表現手段の中で消去法で日本画を選んだはずだった。ところが学校で実際に日本画の素材の使い方について学び、その素材の魅力に取り付かれた。
まずは美しい色にはまり、それが次第に素材感への関心に移り変わって行った。
学校卒業してだいぶ時が経てから、不思議な縁で博物館で働く機会が巡ってきて、日本の古い美術品を沢山目の当たりにする機会に恵まれた。
誰かが大切にして来た美術品に囲まれた生活のなかで、日本画の素材の発展は日本の風土と強く関係があるのではないかと考え始めた。同時に日本での芸術の歴史について顧みるきっかけとなった。
今だからこそ東洋のあるいは日本の風土から生まれた日本発のなにかがあってもいいのではないかと考えるようになった。
紙を貼った白い画面に対峙していると、幻のごとくどこからともなく浮かび上がってくる像がある。その像を刷毛を使って画面の上になぞっていく。
刷毛を離れた絵の具は水を媒介に重力に従い緩やかに動き始めやがて静かに動きを止める。
たわいもないことかもしれないが、そんな浮かびくる像の中に自分のこれまでみて来たもの、あるいは感じて来てものが写しだされるのではないか、絵具の流れの中に人の奥底にあるものがなぞられるのではないかと思う。表面的で強い恣意的な何かを表すよりも、今は静かに見えてくるものを見極めよう。そんな思いで描いている。いつまでこの方法を続けるかわらないが、今以上の確かな何かがつかめる時まで雲をつかむように浮かびくるものを追おうと思う。